第8章 気持ちよすぎる

杉浦杏奈は、灰原仁司の背中が廊下の角へ消えていくのを見届けると、手の傷口をぎゅっと押さえた。

また一つ、借りを作ってしまった。

深く息を吸う。すぐに踵を返し、階段室へ入り、足早に下へ降りていく。

1階のゴミ箱の前を通りかかったとき、捨てられていた花束をさっと拾い上げた。そのまま入口に立ち、フロア案内を見ているふりをする。

杉浦陽向は車を降りるなり、花束を抱えて困ったように立っている杉浦杏奈を見つけた。

「杏奈? 先に帰れって言っただろ」

「陽向兄さん」

杉浦杏奈は振り向いた。

「美雪のことがどうしても気になって。でも、どの病室か忘れちゃって」

杉浦陽向は、少し萎れた薔薇に目...

ログインして続きを読む